日本の美意識が生んだ秋の色彩「朽葉色(くちばいろ)」

色のおはなし 2025.11.27配信

秋の余韻を映す伝統色 ― 「朽葉色(くちばいろ)」のおはなし

皆さま、ごきげんよう。シンシアカラーズです。11月も下旬となりました。もうすぐ師走です。そこはかとなく焦りを感じる今日この頃。皆さまにおかれましては、いかがお過ごしでしょうか。

 

本日は、そっと秋の終わりを告げる「朽葉色(くちばいろ)」のおはなしです。ちょっぴり切なくて、でもどこか安心できる色。日本人の繊細な色彩感覚を物語っています。

 

さあここからは、いつもの通勤・通学路、はたまた朝の散歩道、足元でカサッと音のする落葉の色を思い出してみてください。

 

 

「朽葉色(くちばいろ)」

「朽葉色(くちばいろ)」は、平安時代中期からある日本の伝統色。朽ちてゆく葉の色の総称として用いられています。

 

朽葉とは、枯れ落ちて腐った葉、つまり落ち葉のこと。「朽葉色」は枯れ葉が土へ還っていく瞬間を映したような灰みを帯びた茶褐色を示します。

 

華やかさはないけれど落ち着きと深みがあり、秋から冬へと移り行く季節を感じさてくれるこの色は、平安時代から親しまれ、和装や茶の湯の世界でも大切にされてきました。

赤朽葉・黄朽葉・青朽葉…多彩な朽葉色の世界

四季の移ろいに敏感で、もののあはれを愛した平安貴族たちは、この「朽葉色」がお気に入りだったとか。その色みには、「朽葉四十八色」と呼ばれるほど、多くのバリエーションが生まれました。代表的なものを見ていきましょう。

 

●赤朽葉(あかくちば)
紅葉が枯れゆく過程を映した色。華やかさの中に落ち着きを感じさせます。

 

●黄朽葉(きくちば)
黄ばんだ枯れ葉を思わせる色。明るさと温かみがあり、秋の終わりを軽やかに映します。

 

●青朽葉(あおくちば)
まだ青さを残す葉の色。秋の余韻を感じさせる、少し渋みのある色合いです。

 

●濃朽葉(こいくちば)
深みのある濃い朽葉色。重厚で成熟した印象を与え、秋の深まりを象徴します。

 

●淡朽葉(うすくちば)
柔らかく淡い朽葉色。落ち葉が光に透けるような儚さを表現しています。

 

朽葉色は“終わり”を象徴する色ですが、同時に“余韻”や“静けさ”を感じさせる色でもあります。どの色も中間調の穏やかな色ですね。

 

秋の終わりを静かに見守るこの色は、日本人が生来持ち合わせた繊細な美意識ゆえに愛され続けた色と言えるでしょう。

 

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。シンシアカラーズは、季節の移ろいとともに色の世界を廻りながら、そこにまつわる興味深いお話もあわせて紹介してまいります。

 

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