桜色とともに日本の春を代表する「柳色(やなぎいろ)」

色のおはなし 2024.03.19配信

桜色とともに日本の春を代表する「柳色(やなぎいろ)」

日本の春を代表する色のひとつに「柳色(やなぎいろ)」があります。数日前、皇居のお堀のまわりを歩いていたときに芽吹き始めた柳の木々を目にしました。枝垂れた枝に浅い黄緑色の若い芽をつけて揺れる柳。春がもうすぐそこまで来ていることを教えてくれます。本日は、少々渋めに「柳色」のおはなしです。

 

「柳色(やなぎいろ)」

「柳色」というと、初夏の日差しをうけて川面に映えるみずみずしい緑色を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、色としては、柳の葉の、3月から4月にかけて萌え出るような柔らかい黄緑色をいいます。かつての文献には、「柳色」は萌黄色の経糸と白の緯糸で織り上げた布であると示されていました。

 

春の柳を愛で、そこに生命の息吹を感じるという日本人の感性。いったいどのように育まれてきたのでしょうか。

 

中国の都が唐の長安にあった頃、柳は並木として使われていました。中国の影響を大いに受けていた背景もあり、奈良の平城京や京都の平安京でも大路には柳が植えられました。湿潤を好み、強い根を張る柳には治水の効果があったことから、街路樹や河畔の並木としてそこかしこに植えられていったのです。

 

時代劇ではよく見られるお堀端に柳の図。もともと里山のありふれた木であった柳が、こうした歴史を経て、今でも残る都市風景のひとつとなっていきました。

意外と多い、柳にまつわる色

江戸時代には、公家や武家だけでなく、町人にまで着物が広まっていくなかで、染屋が他の店との差をつけようと、色目と染め方にさまざまな工夫を凝らすようになり、おびただしい色名が生まれました。そのなかで、柳と名のつく「柳茶」「柳鼠」なども登場します。柳にまつわる色名は10色以上あり、その数からも日本で長きに渡り愛されてきた色であることがわかります。今回はその中から6色をご紹介します。

 

 

●青柳(あおやぎ)
柳色よりも青みのある色をいう。

●柳染(やなぎぞめ)
柳葉のようなかすかに灰みを含んだ黄緑色をいう。

●裏柳(うらやなぎ)
柳の葉裏の色からきた色名で、黄みの少ないごく薄い黄緑色。裏葉柳とも呼ばれる。

●柳茶(やなぎちゃ)
茶色がかった柳色のことで、にぶい黄緑色。威光茶とも呼ばれる。

●草柳(くさやなぎ)
灰みのある淡萌黄色。初代尾上菊五郎(梅幸)が好んだことから梅幸茶とも呼ばれる。

●柳鼠(やなぎねず)
柳の緑をおびた鼠の意味で、緑みの薄い鼠色をいう。

 

柳色を軸として、それぞれに色名がある。その微妙な変化を生み出す日本人の感性には魅了されるばかりです。

 

シンシアカラーズでは、色の世界を辿りながら、そこにつながる興味深いおはなしもあわせて紹介しています。今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

 

▶緑系の色の記事:

春の萌え出る草木の緑「萌黄色(もえぎいろ)」のおはなし

春告鳥、ウグイスの羽に似た「鶯色(うぐいすいろ)」

 

▶3月歳時記の関連記事:

日本の春の代表色。はじまりを予感させる「桜色(さくらいろ)」

春分も過ぎ春本番。「菜の花色(なのはないろ)」のおはなし

3月の誕生石「アクアマリン」の色名のおはなし

3月8日の国際女性デーは「ミモザの日」

春の気分を盛り上げる「桃色(ももいろ)」のおはなし

pagetop